eConsent(電磁的方法を用いた同意説明)

このページでは未来の臨床試験「DCT(Decentralized Clinical Trial)」の中でもeConsentついてご紹介します。

少し前から議論がされているDCT。COVID-19のパンデミックで医療機関への来院が制限されたことをきっかけに臨床試験のレジリエンスを高めるための手法として一気に注目されて導入が進んでいます。

今回はその中でもeConsentについてご紹介します。2023年3月30日に政府からeConsentのガイダンス*が発出され、今、最も注目されているDCTツールです。

*治験及び製造販売後臨床試験における電磁的方法を用いた説明及び同意に関する留意点について(令和5年3月30日

eConsentとは?

eConsentとは、患者さんが治験に参加する前に、テキストや画像、音声、ビデオ、生体認証デバイスなど、いろいろな電子的な方法を用いて治験の情報を理解し、治験への参加について同意することを言います。これを使うと、患者さんが自分の家で治験の内容を確認できますし、家族とも話し合って治験への参加を決めることができます。

これまで、治験の説明・同意のプロセスは医療機関に来院して、医師やCRCから直接説明を受けて、同意書(紙)に署名をするというプロセスでした。eConsentはこのプロセスを電子的な方法に置き換えたものです。

これまでの同意取得方法とeConsentの違い

「紙」での同意取得とeConsentの同意取得の違いをプロセスに沿って見ていきましょう。

同意取得
プロセス
「紙」eConsent
募集/
スクリーニング
・患者が広告や医師からの紹介を通じて治験を知り応募する
・応募した患者は、スクリーニングを受ける
治験を実施している医療機関に通院している患者がほとんどで症例集積性が低い
・患者が広告や医師からの紹介を通じて治験を知り応募する
・応募した患者は、スクリーニングを受ける
オンラインで実施できるため、日本全国の患者を対象にでき、広告やプレスクリーニングの効率性がアップする
治験の説明・紙の説明文書を患者に渡し、治験責任医師・分担医師が対面で説明を行う・画像、音声、動画などの説明を患者が視聴する
・治験責任医師・分担医師はオンライン面談で説明する
同意確認・紙の同意書に署名する
・対面で署名、または自宅で署名し医療機関に持参する
・デジタル署名で同意確認を行う
同意文書の保管・紙の同意書をファイルに保管する・デジタル同意書を電子的に保管する

「紙」での同意取得の方法では、紙の文書を患者に渡して対面で説明を行い、同意書に署名をしてもらうという手順を踏んでいました。一方、eConsentでは、主に動画を用いて説明し、電子署名等で同意確認を行います。また、eConsentの場合、同意文書はデジタルで保管されます。

eConsentのメリット、デメリット

eConsentは従来型の「紙」での同意取得と比べ、以下のような利点と注意点があります。

患者の視点からみたメリット、デメリット

「紙」eConsent
プロセス治験責任医師・分担医師が患者に対面で説明し、患者が書面(「神」)で同意書に署名する治験責任医師・分担医師が画像や動画を用いてオンラインで説明し、患者が電子的に同意する
Pros– 医師が直接説明するため、患者の疑問や質問にすぐに回答できる
– 紙での同意書に署名することで、患者が自分が参加することを明確に理解できる
– 患者が自宅などで自分のペースで情報を確認できるため、より理解度が高まる可能性がある
– 遠隔で行うことができるため、交通費や時間を節約できる
Cons– 医師が説明する内容が一定でない場合がある
– 説明を受けるためや署名のために、医療機関に行く必要がある
– テクノロジーに慣れていない患者には理解が難しい場合がある
– 個人に合わせた質問に対応できない場合があります
– 患者がネットワークに接続できない場合や、機器の不具合が生じた場合には問題が生じる可能性がある

医療機関の視点からみたメリット、デメリット

「紙」eConsent
Pros– これまで行ってきた方法で医療機関で慣れている
– 対面で説明することで患者の理解度に応じて説明できる
– 患者が自宅で同意書を確認できるため、診療時間の節約につながる
– 患者が治験の情報を視覚・聴覚的によりわかりやすく理解することができる
– 電子的に同意書を保存できるため、保管が容易
– 同意書の不備が発覚した場合、修正が容易
– 改定、版数管理が容易
– システム上で患者の理解度を確認するとき、患者とのやりとりが容易
Cons– 紙の同意書の作成、印刷、配布、回収、保管に時間と労力が必要
– 患者が同意書を紛失する可能性がある
– 患者が同意書に記載された内容を理解しているかどうかの確認が難しい
– 紙の同意書に不備がある場合、再度同意書の作成・配布を行う必要がある
– システムセットアップ時間がかかる可能性がある
– IT技術に精通した専門家が必要である
– 患者がデバイスに慣れていない場合、操作に苦手意識を持つ可能性がある

スポンサーの視点からみたメリット、デメリット

「紙」eConsent
Pros– 従来の方法かつ一般的な手段であるため、被験者にとっては理解しやすく、安心感を持って治験への参加を決めることができる
– 被験者が同意書に直接署名することで、治験参加を認識しやすい
– セキュリティ上のリスクがない
– コスト削減が見込める
– 同意プロセスが迅速になる
– より迅速かつ正確な情報提供が可能
– 電子署名により、データの正確性を高めることができる
Cons– 同意取得までの時間がかかる
– 誤解や混乱が起こることがある
– 同意書の管理が煩雑になる
– 紙ベースの同意書のデータが損失、破壊、偽造されるリスクがある
– 初期費用が必要
– 患者や医療機関のデジタルリテラシーに依存する
– セキュリティやプライバシーの問題をケアする可能性がある
– 導入が遅れている医療機関が多い

eConsentの最大の課題は?

これまでeConsentのメリット、デメリットを見てきました。使いどころを見極めたら有用なツールなのですが、まだまだ大きな課題があります。それは「普及率」です。

2022年に44の国立大学病院を対象にしたアンケートでは84%の病院でeConsentを未導入でした。医療の最先端を行く国立大学病院でこの状態なので、eConsentを広く治験に利用していく環境が日本で整っているとは言いにくい状況です。

引用元:永井洋士 臨床研究DX推進タスクフォース 国立大学病院臨床研究推進会議 第11回シンポジウム(2023年2月17日)

製薬企業側はどうでしょうか?

2021年に製薬企業53社を対象にしたアンケートでは85%の会社でeConsentを未導入と、国立大学病院と同じ程度でした。

参照元:日本製薬工業協会 医薬品開発におけるeConsent の現状と課題(2022 年 3 月 25 日)をもとに管理人が作成

まだまだ「普及率」には難があるeConsentですが、ごく一部の限られた医療機関や製薬企業では導入が進んでいます。eConsentやDCTは全員並んで一緒に進めていくというよりは、リードするグループが日本全国や世界を網羅できてしまう仕組みなので、この現状をどうとらえるべきか考えさせられます。

それでもeConsent・・・

ここまで、メリット、デメリット、課題を見てきました。まだまだ、世の中に普及してない中、先陣を切って導入するにはいろいろと困難が待ち受けていそうです。

メリットを増やしてデメリットを抑える手立てを考えて全面的に導入するというよりは、eConsentのメリットを活かせるような試験に導入して最大限のメリットを得ていく段階かなと思われます。

実際にeConsentのメリットを活かした成功事例もポツポツと出てきています。

DCTは目的ではなく、課題解決の手段です。eConsentの特徴を捉えるとそれぞれの試験がもつ課題を解決する可能性が見えてきます。

最後にeConsentの効果を最大限得られるのでは、、、といった試験タイプを紹介します。完全に私見です。

eConsentの特徴を活かせそうな試験

リモートトライアル(完全バーチャル試験)

スクリーニング脱落率が高い試験参加できる可能性が低い試験のために遠くまで来院するのは嫌でしょ)

大規模試験(規模が大きいとイニシャルコストとランニングコストがどこかでクロスするはず)

複雑なプロトコル説明するの大変だし説明されるのももっと大変

アオ
アオ

ガイダンスが出て法規制はクリアになりました。あとは実需があれば普及するはず