今日は未来の臨床試験「DCT(Decentralized Clinical Trial)」についてご紹介します。
少し前から議論がされているDCT。COVID-19のパンデミックで医療機関への来院が制限されたことをきっかけに臨床試験のレジリエンスを高めるための手法として一気に注目されて導入が進んでいます。また、先行して導入した製薬企業、医療機関はこれまでの臨床試験手法のバックアップとしての位置づけでDCTを実施するだけでなく、患者体験を変え、効率的に臨床試験を進めることができる破壊的なイノベーションになる可能性を見出し、積極的に導入を進めています。
DCTとは? DCTの概要
DCTとはDecentralized Clinical Trialの略称で日本語では「分散型臨床試験」や「来院に依存しない臨床試験」などと呼ばれます。
DCTは治験実施医療機関への来院を最小限にとどめて実施する臨床試験の手法です。病院に来院しないと実施できなかった診察・治療・投薬・検査などの医療行為を、デジタルとテクノロジー、アイデアを駆使して、自宅や近くの医療機関で受けることができます。
この手法は、患者さんの治験参加の負担を軽減し、治験参加体験を向上させるだけでなく、臨床試験をより効率的かと費用効果の高いものにすることができます。
バーチャル治験、リモート治験と呼ばれることもあるけど、最近ではDCT(分散型臨床試験)という呼び方が一般的になってきているよ
DCTで使われる手法
DCT(分散型臨床試験)では、医療機関での対面での診察や来院を完全に代替したり補完するために様々なデジタルツールと手法が使用されます。一般的な方法には次のものがあります。
被験者はビデオ会議などのリモート通信を使って医療機関のスタッフとコミュニケーションすることができます。
従来の紙での同意説明に変わり患者さんが電子的に説明文書を確認して、治験参加への同意書に電子的にサインすることができます。説明文書は文書に変わり、動画等を用いて説明することもできます。
被験者はスマートフォンやウェアラブルデバイスなどのデジタルデバイスを使って治験関連データを医療機関のスタッフに送信することができます。
被験者は電子デバイスを使って症状、服薬、その他の治験関連情報を記録することができます。
被験者宅や指定先で治験薬を配送するDCT手法です。被験者が医療機関に訪れることなく、好きな場所で治験薬を受領することができます。
これらのツールと手法を組み合わせて使うことで、DCTはより柔軟かつ効率的な方法で行われ、従来の治験で必要だった医療機関への頻回のラインを減らし、被験者の来院負担や治験参加に伴うが身体や時間の負担を最小限にすることができます。
DCTのメリット
DCTは従来型の来院を前提とした臨床試験と比べ、以下のような利点があります。
参加者の体験の改善:DCTは、参加者が自宅や地元のクリニックで、薬物の投与やデータの提供などの試験関連活動を完了できるようにするため、試験施設への負担を軽減します。
被験者の来院を減らし、一元化・一極化することで、試験のスピードアップとコストの削減ができます。
被験者がより自然な日常生活の中で治療を受けることができ、薬物による治療効果の正確な把握ができるため、より高品質なデータを得ることができます。
移動に制限がある人や治験実施医療機関から遠い場所に住む人など、従来の臨床試験には入れなかった患者さんでも治験に入ることができるため、より広い範囲の参加者が簡単に参加できます。
被験者の来院を減らし、被験者に治験薬の取り扱いや投与方法に関する明確な指示をタイムリーに与えることで、プロトコルの遵守を向上させます。
DCTは使い方次第で、被験者にとって参加しやすく、治験参加経験を向上させるものになり、製薬企業にとっても臨床試験のQuality、Cost、Delivery(スピード)を向上させる手法になります。
DCTの課題
一方でDCTには次のような課題もあります。
オンライン診療のリモート技術やデジタルツールを使用するためには、専門知識や技術的な準備が必要です。また、データのセキュリティやプライバシーの問題もあります。
オンライン診療を用いたリモート診断を使用するためには、正確なデータを収集するための方法が必要です。また、リモートと対面とのバリデーションを確立しなければならなかったり、被験者の試験プロトコルの遵守を正確に評価することも難しい場合があります。
一部の参加者に対して十分な医療サポートが提供できない場合があります。また、薬物の効果や副作用の検出に関連する問題もあります。
国や地域によって異なる法規制や運用ルールに従う必要があります。複数国が参加して実施するグローバル試験では、法規制により国ごとに異なる対応をせざるを得ない状況もあり得ます。
被験者がオンライン診療を利用できるか、インターネットアクセスや技術的な知識があるかによって、治験参加者が選別され、被験者の治療のオプションが制限される可能性があります。
オンライン診療やeCOAやデジタルツールなどのこれまでにはない新しいツールを導入し、維持するための費用がかかる場合があります。
これらの課題を克服するために、DCTの導入にはメリットとデメリットを見極めて慎重に導入する必要があります。
日本におけるDCTの現状
日本でどれだけDCTが実施されているか、現在のところ確実な数値はありません。残念ながらまだまだ少数派で、正確な調査さえ実施されていないというのが日本におけるDCTの現状です。日本では伝統的な臨床試験の文化が強いこともあり、また、DCTに必要な技術やインフラの整備も進んでいないこともあり、普及が遅れていると考えられています。しかし、今後、患者の負担を減らすことや、費用効率の向上などのメリットから、DCTの普及が進んでいくと予想されます。
日本でDCTを普及させていくには次のような課題があると思われます。
DCTを日本で実施するにはまだまだ課題が多くあります。これらの課題を乗り越えるためには、法規制の枠組みの整備、技術的な課題に対するアプローチ、医療従事者・患者への情報発信・教育などが重要です。
今回は新たな臨床試験のトレンド”DCT”について概説しました。次回はもうちょっと頑張ります。。。