医薬品開発には1千億円単位のお金と十数年単位の時間が必要と言われています。なぜ他の消費財と違ってこれほどまでに多くのお金と時間がかかるのでしょうか?それはヒトの体に直接影響を与えるモノであるために、世の中に薬を出すために厳重なプロセスが設けられているからです。
今回は医薬品の開発プロセスについてご紹介します。
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医薬品開発の4つのステップ
新たな医薬品は大きく分けて4つのプロセスを経て、市場に流通します。
その4つは、基礎研究、非臨床試験、臨床試験、申請・承認です。
医薬品は人体の構造または機能に影響を及ぼす作用をもった物質であることから、法律に則り厳密な管理下で試験を実施して有効性と安全性が検証されたうえで上市されます。
4つのプロセスの後半部分である臨床試験と申請・承認を一般に「開発」と呼びます。莫大な研究開発費用の50%以上がこの「開発」に使われています。
基礎研究
新薬になる可能性がある物質を作ったり、選定するプロセスです。
数百万種類の化合物ライブラリーの中から有効な新薬候補物質を探したり、病態メカニズムを解明して病気の原因に影響を与えるような物質を設計します。遺伝子配列をもとに特定の遺伝子やたんぱく質を抑制するような方法もあります。
10年以上前は低分子医薬品が中心でしたが、次第に抗体医薬品が主役となり、現在では核酸医薬品やiPSのような再生医療医薬品など基礎研究や科学技術の進歩とともに新しいタイプの薬が生まれています。
どこの何をターゲットにするかも重要で、薬の効き方や開発のスピードに大きな差が出ます。
日本勢が完全に敗北した新型コロナウイルスのワクチン開発競争では、mRNAワクチンを使ったファイザーやモデルナが圧勝しました。mRNAワクチンは新型コロナウイルスのスパイクタンパク質(ウイルスがヒトの細胞へ侵入するために必要なタンパク質)の設計図となるmRNAをもとに作られたワクチンです。この技術を使うと、ウイルスの配列さえわかればすぐにワクチン(候補)を作りだすことができます。この2社が新型コロナウイルスの配列が公開されて1,2ヶ月で候補となるワクチンを作り出していることにはとても驚きです。
非臨床試験
動物や細胞を使って基礎研究で見出した新薬候補物質の効果、安全性、動態を科学的に調べる段階です。
基礎研究段階で想定していた効果や細胞内での挙動が実際に観察されるか検証します。
非臨床試験はGLP(Good Laboratory Practice)や各種ガイドラインに基づいて行われます。
効果が確認された新薬候補物質をヒトに投与する場合、どの程度の容量であれば効果があり安全か動物や細胞、コンピュータシミュレーションを用いて推測することも重要なプロセスです。
臨床試験(治験)
臨床試験は第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験、第Ⅲ相試験の3つのフェーズに分けて行われます。それぞれフェーズ1、フェーズ2、フェーズ3と呼ぶこともあります。開発初期段階から1、2、3と数が増えるにしたがって後期の開発段階に進みます。
最初は第Ⅰ相試験で、ここで初めて新薬候補物質をヒトに投与します。基本的には健康な成人を対象として新薬候補物質を投与し、安全性や体内動態を確認します。
次に行われる第Ⅱ相試験では比較的少数の患者さんに投与します。有効性や適切な投与量をこの段階で確認します。
最後の臨床試験が第Ⅲ相試験です。ここでは第Ⅱ相試験までに得られた結果をもとにより大規模な患者さんを対象として有効性と安全性を検証します。
これまでに得られたデータをPMDA、厚生労働省に提出して審査を受けます。無事に当局から製造販売承認を得られると新薬として販売することができます。
基礎研究から臨床試験まで先人たちが多くの時間とお金をかけて、ようやく承認申請に至ります。医薬品開発の集大成の時です。
臨床試験の開始時(第Ⅰ相試験)から承認まででも10年近くかかることも多いですし、途中で様々な理由で開発中止となる事もあります。第Ⅰ相試験から最後の承認まで一つの製品の医薬品開発に携われることは稀で、もしも実現できたらとてもラッキーです。
まとめ
医薬品は基礎研究・非臨床試験・臨床試験・申請/承認のプロセスを得てその有効性と安全性を確認し、規制当局の審査を経て患者さんのもとに届けられます。
臨床試験から申請/初認のプロセスを医薬品「開発」と呼び、臨床試験では比較的小人数のヒトから投与をはじめ、安全性と有効性が確認されるにつれて、より大人数の試験を実施します。順に第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験、第Ⅲ相試験と言います。
医薬品の開発には1千億円単位のお金と10年以上の時間を要します。お金と時間の裏には臨床試験に協力してくれる患者さんがいることを忘れてはいけません。もちろん、医薬品の開発に多くの労力をかけてきた医薬品開発担当者がいることも頭の片隅で覚えて頂ければ幸いです。